雨の日のアイリス

読書「雨の日のアイリス」松山剛 イラスト・ヒラサト(電撃文庫2011年)

 ここまでの感動作とは思わなかった。雨の日に残骸状態で「姉さん……」の言葉でウェンディ・フォウ・アンヴレラ博士を引き止め、修理されてメイドロボに仕立て上げられたアイリス。ロボット工学博士のウェンディにラブラブなアイリスは、博士のことになるといつもハイテンション。

 でも、アイリスの一人称語りでは「僕」で最初の違和感。そして自分をはじめとして相当に客観視していて、そのギャップにとてつもない違和感。

 自由奔放にはじまった物語は、ある出来事を境にして一変。このどん底ぶりの容赦ない描写に唖然とする。ここまでヒロイン(?)をフルボッコにするとは恐ろしい。

 自分は何者なのか、なんのために生きるのか。自分の居場所、自分の姿、性別のはっきりしないという特徴をもつロボット。「僕」という一人称からして、すべてアイデンティティの物語でもあると感じた。読みながら、途中でせつなくなってきて胸にこみあげてくるものがあった。こんなのは久しぶり。

 自立型のロボットが存在する技術があるわりには、1メートルもの大きな魚を買って背負うのをはじめとして、各種設定が都合のいいファンタジー(童話より)になっているのがちょっとひっかかるものの、この落差を産み出す構成力にはずば抜けたものを感じたし、感動力もすごい。

 惜しむらくは、やはり、既存作によく見られたパーツで組み上がっていることだろうか。今作の終盤は「わたしは真悟」をはじめとする逃走ロボットものをあれこれ連想してしまった。

 もう少しこの世界に浸っていたいので続巻を期待したいけど、無理そうで残念。