督促OL修行日記

「督促OL修行日記」榎本まみ(文藝春秋2012年)

 信販会社に入社して支払延滞顧客への督促コールセンターに従事することになった著者の仕事体験記録。

 自分自身が督促顧客だったのもあって、興味深く一気読みした。文章量が少ないのもよかったかもしれない。しかし、よく辞めなかったなと不思議に思う。早出残業と長時間労働で、顧客から怒鳴られまくりで精神を病んで心因性のストレスで体調不良にもなっているのに、どうして耐えられたのだろうか。ほかに行き場がなかったのか、それとも辞めるという選択をまるで思いつかなかったのか。

 著者はいつまでも落ち込んではいられないと前向きになり、有能な先輩からテクニックを教わったり盗んだり、セミナーにも通う行動力を見せたりする。でも、この信販会社というか督促部署って、会社がやむをえず設置したというか、そんなに重要視されていない部署のように感じた。とりあえずコミュニケーション能力が人並みにあればどんどん入社させて、使いものにならなくなったら使い捨てるという暗黒現場。

 文中にパイナップルアーミーの話とか年収スカウターのキーワードが出てくるのがちょっと愉快。従業員の足の組み方から精神状況がわかるとか、下肢には本当の気持ちが現れやすいという人間行動学の引用もある。クレーマーへの対処。相手の罪悪感をくすぐる。疑問を投げかけるなどのテクニック。謝罪のテクニック。電話の最後に相手を気づかう言葉をかける。日常生活でテクニックを活用する場面も。

 著者がどうしてそこまでして激務を続けられたのか、続けようとしたのかは明らかにされていない。あとがきに少し重い内容が書かれているけれど、そこにヒントがあるのかもしれない。