「やりがいのある仕事」という幻想

「「やりがいのある仕事」という幻想」森博嗣(朝日新書2013年)

 就職活動をしたことがない森博嗣による仕事の話。分析的な解説が多く抽象的で、まるで仕事についての概論文というか教則本を読んでいるのかと錯覚した。

 個人的に前々から仕事(労働)というものに対して「労働搾取」や「やりがいの搾取」といった引っかかりのある言葉をネットでたびたび目にしたこともあり、なにがしかのモヤモヤしたものが自分の心なかで渦巻いていた。これを森博嗣が解説してくれて、その対処法をスパッと切り崩してくれるかと思ったら、大間違いだよ!

 著者は、仕事がつらいなら辞めればいいと何度も発言しているのだけど、辞めた際の周囲からの評価や経済状況にくわえて、将来の人生設計はどうしたらいいのかなどについてはあっさりと片づけてしまっているためにどうもわかりづらい。

 でも、人気のある職業(ゲームとかパソコン、バブルの頃は金融業)は、たまたまそのときが順調なだけであって、10年も経てばブームが去るのにそんな業種に入社しようとするという著者の分析にはハッとさせられた。

 また自殺者の話もチラホラと出ているのも見逃せない。

 悩み問答集には予想通りというか、甘えを排除した至極まっとうな返答しかしない。この答えには落胆する人も多いだろうが、そもそも仕事に対する考え方が違うのだと著者はあらかじめフォローをいれている。

 あくまでも仕事という行為は、代償を支払って対価を得るという人間らしい感情を切り捨てたその思想。どこの黒の契約者だよ、と思わずにはいられないのだ。