カナスピカ

「カナスピカ」秋田禎信(講談社文庫2010年)

 異星人によって地球に設置された観測衛星が隕石と衝突して落下し、イケメン少年に変化。女子中学生の坂巻加奈が、イケメン少年のカナスピカと出会ってなりゆきで交流し、内心ではまんざらでもない様子で付き合っていくうちにいろいろな出来事やいろんな人達と遭遇し、ちょっとした非日常を体験する、という話。

 青春小説としては王道か。そして少しSF風味。冒頭の一行からして「加奈が下校中、空を見上げる確率は四万七千六十四分の一だ。」と明確な数字が使われる。

 なので、相当のSFになるかと思いきや、ファンタジー風味程度にとどまっており、あくまでも加奈の日常が主体であって、じっくりと加奈の心情やなんやかやが丹念に描かれている。なのだからかもしれないけど、物語としては相当なスローテンポで展開していくので、自分は早々にこういうものだとして覚悟を決めて読んでいた。

 加奈が容赦のないちょっとした暴力を受ける場面もあるけれど、市役所に宇宙人対策室があったり、そこの役人さんがどこかネジが外れた天然人物であったりと、全体にコメディテイスト。加奈をとりまく友人や家族環境も、イジメといった陰湿なものもなく、ほんわりとしたものが全編に漂っているのがちょっと珍しい。

 人間の少女と意識をもった人工衛星という日常と非日常のド定番のやりとりを堪能しつつ、相当に昭和のジュブナイルテイストだなとさらに思いつつ、それぞれの関係が最後にはどうなるのかをあれこれ妄想しながらラストを迎えた。ほんのりあたたかい余韻が残った。

 坂の上になぜ学校があるのかの理由が、自分にとってのセンスオブワンダーであった。

「明らかな矛盾がある時には、単純なほうが正しい」