さらば脳ブーム

「さらば脳ブーム」川島隆太(新潮新書2010年)

 著者の実証研究により、単純な計算問題を解くと老若男女を問わず脳が活性化することがわかり、認知症患者の治療にも驚くほど役立つことが判明する。

 ほかにも、ミッションバイクの運転や料理のほとんどの調理工程でも脳が活性化することが確認されながらも、皮むき器(ピーラー)を使用している時やハンバーグの種を手でこねている時には逆に不活性化したとか。計算問題も単純な問題以外の複雑なものになると抑制されるとか。

 テレビゲームでの実験ではこんなことが書かれていた。

「ゲームソフトに慣れていない時は、ゲームの手順を覚えるためであろうが前頭前野の盛んな活動が観察される。しかし、ゲームで楽しく遊べる程度に慣れてくると、とたんに抑制がかかりだすことがわかった。」

「単純な計算問題を速く解かせると、驚くほど大脳左右両半球の前頭前野が活性化したが、同じように計算は必要ではあるが、ゲームとしての楽しさを追求して「よく作り込んだソフト」で遊ばせると、前頭前野には何故か強い抑制がかかった。」

 そして、脳トレブームが巻き起こったときの社会反響。メディアに取り上げれると数々の批判を浴び、そのたびに著者は激怒していたことを吐露している。

 本書のなかでちょっと唖然としたことが書かれていた。年間に4万円程度の費用ですむ計算療法を国や自治体で広めてもらえれば、巨額の税負担を減らすことができるとして、著者が当時の財務官僚に進言したときの返事部分。

「学習療法を施策として動かしても、政治家を始め誰にも旨みがない。国の施策にできるかどうかを考える際、『利用者である国民が幸せになるかどうか』は二の次なんです。例えば、介護予防のための筋トレ装置だと数百万円以上するので、これが厚生労働省の施策としてすぐに取り入れられる。お金のかからない学習療法のような方法は、その効果を万人が認め、政治家も役人も『民の声』が無視できなくなった時に、初めて施策にのるものです。それまでは努力を続けるしかありません」


 お金を稼ぐことに罪悪感があり、儲かったお金は全部東北大学に寄付しているそうでビルが2つ建ったとか。きっとそのビル、「川島ビル」とか「脳トレビル」とか呼ばれているに違いない。

 著者は自らを勝ち組と認識しており、たしかな根拠もなく批判してきた人たちに様々な恨みつらみを言い募っている。本書の最後に書かれている言葉が後をひいた。

「ざまあみろ! 私の勝ちじゃ!」