重力ピエロ

「重力ピエロ」伊坂幸太郎(新潮文庫2006年)

 遺伝子情報を扱う企業で働く泉水(泉水)には弟の春(ハル)がいて、春は母親が連続強姦魔にレイプされて生まれきた。その母親は数年前に他界し、父親は現在、癌で入院中。最近、近所で連続放火の事件が起こり、そこにはなにかルールのようなものがあった、という前提から話がはじまる。

 ものすごくテクニカルというか、遺伝子やグラフィティアートに強姦事件にまつわる出来事など、作中のセリフやら行動やらなにやらすべてに全部意味があり、それぞれ理由があってつながっていて、ため息をするぐらいの質の高さ。

 タイトルの「重力ピエロ」というのも、いびつな状態の家族が必死に家族になろうとしていることで、常に背負っている重いものから解き放たれるという比喩だと連想させられる。

「俺たちは最強の家族だ」という父親の言葉が印象的。両親と兄弟がそれぞれにとても仲が良く、その触れ合いとか距離感とかがたまらない。

 それぞれの人物は本心を決して語ることがなく、春は偉人や古典文学などの言葉を執拗に引用してみせる。引用はしょせん借りものであって、有名人という権威を利用した会話テクニックに過ぎず、独自のアイデンティはない。けれど、この引用にはまた別の理由があるというところに唸らされた。

 ほかにもあれこれと今現在も考え中で、いまだに消化できずにいる。それだけ多くの要素が詰め込まれていた。