エスケヱプ・スピヰド

「エスケヱプ・スピヰド」九岡望 イラスト・吟(電撃文庫2012年)

 昭和一〇一年。かつて八洲(やしま)国軍の大型基地を擁すほどの街だった尽天(ジン天)。大戦が終わったのかまだ継続中なのかは不明ながら、都市機能が壊滅して廃墟同然となった尽天でほそぼそと暮らす50人ほどの集まりがあって、彼らはこの尽天から抜け出ようと画策しているが、大きな障害が立ちはだかっており、その対策を日々思案している。

 生き残りである少女の叶葉(かなは)は、先の大戦で生きながらえた兵器である九曜と出会い、主としての契約を結ばされることに。兵器として特化した九曜は日常生活に溶け込もうとせず、住民から距離を保って叶葉を守ろうとする。

 虫を模した兵器を繰って、最強とうたわれた竜胆(りんどう)との対決がメインか。ドッグファイトを展開するという点では、昨日読んだ「パンツァーポリス1935」と、大筋は同じ。昭和一〇一年という仮想設定を用意しての、独特な電脳サイバー技術用語の応酬には最初は戸惑ったものの、中盤ぐらいからはマイルドになってそこそこ読みやすかった。

 殺人兵器としての九曜の主(あるじ)でもあるヒロインの叶葉は、九曜を人間として接していて、仕事にも精を出して張り切る姿に好感。

 なのだけど、立ちはだかる最強の竜胆がなぜそこまで戦闘をしてくるのかの理由が不明だったし、なんというかその、話の筋自体はよく言えば王道というのかありがちで、強大な敵に対抗する突破口というのがちょっと貧相というかショボイというか。最後はなんでそういう展開にしたのかもちょっとよくわかんないのが本音。

 冒頭に登場する、叶葉を身うけした伍長がとても印象に残ってて、いつ登場するのかとずっと期待していたのだが。うーむ。