エアリアルシティ

「エアリアルシティ」川上稔 イラスト・中北晃二(電撃文庫1997年)

 最初の序文に、「英国は、書物という文字世界に封印されている。」とあり、書物の中の世界「架空都市――倫敦(ロンドン)」で繰り広げられる物語であることがエクスキューズされるという、かなりぶっ飛んだ世界観で、人外の人狼やら天使に悪魔に自動機械(ザイン・フラウ)らが人間のように暮らすという設定。

 書物の世界ということで、周囲を認識する際にオーバーライド(言像化)、隠すことをオーバーロス(言影化)、感情が他人に伝わるほどにおもてに出ることをオーブン(外燃詞)、冷静になることをセルフコントロール(字己清詞)、死んで存在が消滅することをアッシュ(焚滅)など、造語が次から次へと出てくる。

 今でこそ映画「マトリックス」やバーチャルゲームなどが普及しているので、こういった仮想世界の設定は受け入れやすい環境になっているけど、1997年当時のライトノベル読者にとって、この世界観は相当に難解だったのではと懸念してしまう。

 物語もアクションがいきなりはじまるのは定番ながらも、人外な存在を排除するヴァレスらの目的が不明であるとか、主人公格のアモンの紹介がどうにもうまくないとか序盤は相当にとっつきにくいのは確かだし、独特の世界観と設定をうまく説明しきれておらず、わかる人だけわかってくれればいいという飛ばし具合なので、読む人を相当に選ぶというのは、どうにももったいない。

 アモンとクラウゼルとの交流がよかったので、この部分をじっくり描いて欲しかった。正体不明の警部と秘書のフィルの存在感のなさは一体。