創るセンス 工作の思考

「創るセンス 工作の思考」森博嗣(集英社新書2010年)

 1957年生まれの著者による工作全般の話。著者の小さい頃は誰もが電子工作を普通に楽しんでいて、誰しもがラジオを自作し、自分で電子回路を設計できる小学生もいたという。現在は部品がユニット化されていて交換するだけになっている現状を憂いている様子。

 工作をすると見えてくることを大まかに4つに分けて解説。いずれも抽象的な内容が多くて読むのがしんどいか。

 具体的な話のなかで、著者がロボットコンテストに感銘を受けて自分の授業に取り入れたときの話がとても面白い。

「ボール紙を使って橋を作り、机と机の間に架けなさい。その中心に1kgのウェイトをぶら下げる。これに耐えうる構造でなければならない。それを実現した橋の中で、最軽量のものを優勝とする」

 というコンテストを企画した授業の内容。それともう一つ。

「息子が小学生のときに一緒に作ったものがある。それは、自動販売機のおもちゃだった。空き箱やボール紙をハサミで切り、接着剤で組み立てて作った。コインを入れると缶ジュースが1本ずつ出てくる。モータや電気は使っていない。紙と接着剤のほかには輪ゴムを使った。缶ジュースはもちろん本物ではなく、実物よりも小さな模型だった(もちろん自作品)。コインだけは本物を使ったが、真偽や勝ちを判別する機能はもちろんない。さて、この、コインを入れるとジュースが1本ずつ出る、という動作を繰り返す機構を、貴方は想像できるだろうか。」

 この工作の難しいところや仕組みが思い浮かべられる人は、(著者の考えるところの)工作のセンスを持っているといえるらしい。また、この自動販売機のおもちゃは、著者が子供の頃であれば、普通に一人で作れるレベルのものだとも。

 著者にとって、工作はあくまでも趣味であり、これを仕事にしようなどとは思っていなかったそうで、小説もどうせなら面白く書こうと思いたち、処女作は事前に設計をしてから執筆したが、二作目からはいきあたりばったりだったという。そのほうが自由に想像ができて書いている著者自身も楽しめたとか。

 小説の執筆や写真撮影に、子供を育てることも工作ではないのかと語り、なぜそんなことをするのかには、よくわからないと答えている。

 どちらにしろ。手の込んだ模型作品を大量に製作しており、大人が乗車できるほどの庭園鉄道まで作成している著者には感嘆を覚えた。